「判決の瞬間、二人はまったく同じ反応をした。ニヤっと笑ったのである。」 そして殺人者は野に放たれる

そして殺人者は野に放たれる 日垣隆 新潮文庫【2006】

【概要】

 「心神喪失」による免罪について10年掛かりで調べたリポート。

 

 夫婦を強盗殺人した罪が「犯行中覚醒剤使用中であったため」減刑される。

 心神喪失を判断する精神鑑定の不確かさ、そしてそれを根拠に殺人者を減刑もしくは罪を問われることすらなく世に戻している日本特有の異常な事実を、被害者家族の生々しい証言なども交えて具体的に取り上げる。

 第三回新潮ドキュメント賞受賞作品。

 

【感想】

 怖すぎる。

 容疑者の罪を軽減する精神鑑定の曖昧さ、そしてその心神喪失者を処遇する施設が無いという問題、遺族への余りの配慮の無さ、その大元となる刑法39条の問題などを取り上げ、余りにもずさんな法体制と余りにも無残な遺族への扱いの実例が多数挙げられる。「これは本当にノンフィクションなのか」というほどの衝撃を受け続けることは間違いない。

 

 専門用語も使われるが、説明が的確で、誰にも読み解ける文章。ただし、作者の批判は「お寒いかぎり」「何を言っているのか」と遠慮が無く、苦手な人には抵抗があるかもしれない。ただ、その主張はほとんどが文句無しで正しい。

 

 どんなサスペンスよりも背筋が凍る思いが味わえる。何といってもこれは現実なのだから。

 本作の元が刊行されたのは2003年。現在、この問題はどうなったのかを想像すると、さらに恐ろしくなってくる衝撃作。

2017年12月21日|カテゴリ:本